万斉はいつものように晋助の寝所に向かう。別になにかするわけでもないが、様子を見に行くといった程度だ。
晋助の寝所に向かう渡り廊下を歩いている時、ふと外を眺める。

「今宵は新月でござるか・・・」

夜空には月明かりが無くそれぞれの星が己を主張するかのように瞬いている。
その瞬きに万斉は妙な予感がし夜空を眺めるのをやめ晋助の元へと急ぐ。

晋助の寝所の前に立ち万斉は部屋の中に気配が無いのに気づく。
いつもならば部屋に入る前は「晋助、入るでござるよ」っと一声かけるのだが、気配が感じられない以上は急を要する。


大きな音を立て襖を開ける。

「晋助!!!!居るでござ・・・?」

まで言い掛けそれを止める。
いつもは窓際で、煙管を吸っている晋助の姿がそこには無かった・・・
寝所のどこにも姿は無く、畳にひかれてる布団にも寝ている姿無くだた置いてあるだけだった。
「・・・晋助、どこに行ったでござる・・・」
今日・・・晋助が出かけるといったことは聞いていない万斉は心配でたまらなかった。
自分達は指名手配犯。
”いつ” ”どこで” 捕まってもおかしくは無い状態にある。
それなのにも関わらず晋助は出歩く。
よく考えてみると、ここ最近だが新月の日から数日間の夜に晋助が居ない事が多い。
あまり気にしてはいなかったが・・・
いつから・・・?とか、どこでなにをしているのか?と深く思案していると、複数の足音がこちらに向かって来ている。
なにかあったのか?そう思い込む万斉は部屋を出た。
すると目の前に、来島また子を含む数人がいた。

「万斉先輩!晋助様になにかあったっスか?」
どうやら先程の物音で集まった事を理解する。

「いや・・・なにもないでござるよ。」

「でも!さっきの物音はなんだったんでっスか?」

「本当になんでもないでござるよ?信用できないでござるか?」

っと少々強気で発言すれば、また子は納得していない顔をしていたが自分が何もないと主張したことにより深くは追求してこなかった。
晋助が出かけてることを悟られるわけにはいかかにと判断した結果からの事だった。
彼女は晋助を妄信している。何も言わずに出かけてると知れば心配で探しに行くだろう。

「とにかくなんでもないでござるから、下がるでござる!晋助が起きるでござるよ。」
ここまで言えば猪突猛進の彼女でも退くだろう・・・
「わかったっス!!でもなにかあれば言って欲しいっス。」
「・・判っているでござるよ。」

なんとか彼女達を退かせることに成功した。
それにしても本当にどこに行ったのでござろう・・・
言わずに出かけたと言う事は、言えない事情があるのだろう。
自分にも言えない事情とは?と色々考えながら万斉は晋助の帰りを部屋の前で待つ事にした。

あれから何時間が経っただろうか。いまだ晋助は帰らない・・・
そろそろ日付けが変わる頃だろうか。
やはり探しに言ったほうが良かったのか?などと考えていた。
心配のしすぎで気が変になりそうだ。

空を見上げると、幾分か夜空が明るくなったように思える。
そろそろ夜明けが近いのかと思った。
いくらなんでも帰りが遅すぎると思った万斉は重い腰を上げて晋助を探しに行こうと思い始めていた。
そんな時、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
目を凝らし廊下の奥のほうを見る。
ゆっくりだが確実に近づいてくる足音。物取りではない様子から多分この部屋の主だろう。

足音の主が外からの光が入る位置まで来たときに顔の確認が出来た。
やはり晋助であった。
向こうはまだ自分には気づいては居ないみたいだ。

「・・・晋助、おかえりでござる。」
声をかけたみた。やはりというか当然というか晋助は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻った。
「テメェ・・・部屋の前でなにしてやがる・・・」

「晋助が居なかったみたいでござったから、帰りを待っていたでござるよ?」

そう、晋助が無事に帰るのを待っていた。

「そうか・・・下がれ・・・」
「判ったでござる」

しばし会話してから拙者は晋助の前から下がるために横を通りすぎようとした。
その時、晋助の衣服から普段とは違う香りがした・・・
普段晋助からは、紫煙の香りがするのだかその香りとは違う香り。
やはり誰かと会っていたのだろうか・・・
万斉は気になり晋助に声をかけようと振り返り晋助の肩に手を置こうとしたが、すぐさまその手を引っ込めた。

ピシャリっと障子の閉まる音が聞こえた。
これではもう何も追求できない・・・

致し方なく万斉は自分の部屋へと歩き出す。
自室に着き先程見たものについて深く思案する。


聞きたいことは沢山あったが、聞けなかった・・・
あの時見たもの・・・晋助の着流しの首口から除く紅く咲いた華・・・
それにいつもと違う香り・・・
遊女とは異なるそして女の物とは思えない香り・・・
そして己を主張するかのように晋助の白い肌に咲いた華・・・
万斉は確信した。やはり誰かと会ってそういう行為をしてきたのだと。
一体・・・誰と・・・どこで?色々と考え込むうちに完全に夜が明けてしまった。
考えたい事は沢山有ったが、支障がでると困るので仮眠をとる事にした。
起きたら晋助にどこに行っていたのか聞いてみよう・・・
おそらく答えてはくれないだろう。


続く